首都圏DCの集積地として一時代を築いた千葉県印西市は、電力供給の限界に直面し、新規施設の建設が「10年待ち」とも言われていますが、この空白を埋める存在として、神奈川県相模原市が浮上してきました。
地権者の理解、都市圏への通信距離、さらにはリニア中央新幹線の新駅構想――。
不動産鑑定士の目から見たとき、相模原は単なる“次の候補地”ではなく、未来の不動産評価モデルのヒントに満ちていると言えるでしょう。
目次
印西の限界と、次のDC立地候補
千葉県印西市が「データセンター(DC)銀座」と呼ばれ、世界中のIT企業が拠点を構えるようになったのは2020年以降のこと。安定した地盤、東京圏からの近さ、整備された通信網により理想的な立地条件を備えた場所として高く評価されてきました。
しかし、現在その勢いに急ブレーキをかけているのが“電力”の限界です。変電所の建設には最大10年を要し、東京電力は「今後新たにDCを建設する事業者には電力供給まで10年かかる可能性がある」と公言する状況です。
この状況を受け、「印西の次」を担う新たなDC立地として注目されているのが神奈川県相模原市です。
相模原市が注目される理由
相模原市の麻溝台・新磯野地区では、オーストラリアの不動産大手グッドマングループなどが参画し、地権者との調整を進めています。市議会関係者によれば、地権者の3分の2以上が賛成しており、地元の受け入れ態勢も整いつつあります。
ここで私が注目するのは、「不動産の本質的価値は、“今”ではなく“未来”によって決まる」という視点です。印西市の通信網や人的資源は依然として強力ですが、供給できない=立地の限界という見方も成り立ちます。
一方、相模原市はまだ未開発の余地を残しつつ、都心への通信距離やアクセス面では印西と遜色ない立地にあります。そしてこの“未来価値”を一気に押し上げる要素がもう一つ――リニア中央新幹線の新駅構想です。
リニア新駅がもたらす未来資産の上昇圧力
現在、品川〜名古屋間で建設が進むリニア中央新幹線では、神奈川県相模原市(橋本駅周辺)に新駅が設けられる予定です。これにより、相模原市は
- 首都圏と中部圏の中間地点としての戦略的な立地
- 高速アクセス可能な「次世代交通インフラ都市」
- 本社機能の分散先、BCP(事業継続計画)立地
という評価軸を得ることになります。
これは、単なる移動利便性の話ではありません。人材誘致・情報集積・設備保守・人流動線の再構築など、DC立地における長期競争力の源泉となるのです。
自治体にとっての税収メリット
DCの誘致がもたらす自治体のメリットは、何といっても安定した税収基盤の確保です。
- 土地・建物への固定資産税
- サーバー・冷却装置などの償却資産税
これらはすべて市町村の一般財源となります。印西市では、この10年で固定資産税収が2倍以上に増加したとされます。
さらにDCは、物流施設や工場と違い騒音や交通負荷が小さく、周辺住民や地権者の理解を得やすいという特徴も持ち合わせています。
すなわち、税収効率と住民受容性の両面で非常に優れた施設なのです。
REIT制度改革と資本の流れ
金融庁は2025年から、REIT(不動産投資信託)の対象にデータセンターの設備部分も含める方針を打ち出しています。これにより、今後はDCが単なる施設ではなく、「資産運用対象」として組み込まれやすくなります。
- 安定的なキャッシュフロー
- インフレに強い設備型資産
- 個人投資家でも分散投資しやすい金融商品化
つまり、REIT×DC×地方立地という三位一体の潮流が、相模原市のような将来性あるエリアに新しい資本を呼び込む構図が見えてくるのです。
“ワット・ビット連携”構想との接点
政府が進める「ワット・ビット連携」政策――電力(ワット)と通信(ビット)のインフラを効率的に統合する構想も、今回の動きと密接に関係しています。
DCは膨大な電力と高速通信を同時に必要とするため、既存の都市圏周辺では供給限界が発生しています。一方、発電所の近くでは通信が弱い。インフラの地理的ギャップが、日本のDC集積戦略を難しくしているのです。
この課題を克服する一つの鍵が、“準都市圏でインフラ整備が進みつつあるエリア”=相模原市であり、その中でも麻溝台・新磯野地区のような土地区画整理地は、大規模施設の立地に理想的です。
未来を見て、土地の価値を読み解く
私たち不動産鑑定士は、土地や建物の現在価値だけでなく、「将来にわたってどれだけの便益・収益が得られるか」という観点で資産価値を評価します。
相模原市に集まりつつある要素――
- リニア開業というインフラインパクト
- データセンターという成長産業
- 自治体の税収基盤・地権者合意
- REIT制度改革という資本の流れ
これらすべてが重なる地域は、全国でも限られています。
だからこそ私は、相模原市のDC誘致は単なる施設立地ではなく、「未来価値を先取りする不動産評価モデルの象徴」として注目すべき事例だと考えています。

